交通KYT(交通危険予知トレーニング)は、交通安全のための危険予測にKYT(危険予知トレーニング)の手法を応用したものです。

交通KYT(交通危険予知トレーニング)とは

交通KYTの目的は、運転者一人ひとりが、様々な交通状況における判断と運転行動との問題点に気づき、より適切な運転行動ができるようになることです。

交通KYTは、交通事故の原因となりうる危険要因を予知し的確に回避できるようにするため、現実の交通状況に潜む危険を発見し回避する手段を習得する訓練手法です。

交通KYTにより各々の運転者が危険の兆しはどこに現れるか、気づきにくいはどういったものか等を予め理解しておくことで、実際の交通状況における危険に対応する負担を減らし、安全な運転につなげることができます。

交通KYTの重要性

実際の交通状況は千差万別、まったく同じ状況は二度と現れません。
経験豊富な運転者であっても、体験したことのない交通状況に遭遇することもいくらだってあり得ます。

だからこそ、交通KYTで最も大事なのは、運転者の問題ある判断と運転行動を変え、予知された危険に対応できるようになることです。
特定の状況における行動を一つひとつ覚えること以上に、一人ひとりの運転者が、危険につながる行動及びその行動を取ろうとした判断の問題点に気が付くことが大切です。

自動車運転は、究極的には運転者の判断力と運転技術に依存するので、一人ひとりの運転者の能力向上が最も重要なのです。

交通KYTと交通KYT基礎4ラウンド法

交通KYTは通常、交通KYT基礎4ラウンド法と呼ばれる手法で行われます。

交通KYT基礎4ラウンド法は、KYTの標準的な手法であるKYT4ラウンド法を応用したものです。
KYT4ラウンド法との違いは危険要因のとらえ方と表現の仕方にあり、実際の交通状況への対応力を向上させるようになっています。

自動車運転の危険の特徴

自動車運転の危険は、事業所等での作業とは異なった次のような特徴があります。

状況変化を予測しえない

交通状況は常に変化し、完璧に予測することは不可能です。

交通事故の種類は、ぶつかったり、追突したり、接触したりとたくさんのパターンがあります。
方向も前後左右、時には上下すら考慮しなければならないこともあります。

交通事故の相手になる可能性があるのは自動車ではなく、歩行者や自転車等様々です。
自動車も乗用車だけではなく、トラック、バス、二輪車など多くの種類があり、大きさも速度も違っています。
歩行者も大人、子ども、高齢者など一様ではありません。
そうした多様な相手が、次の瞬間にどのような動きをするかを完璧に予測することは不可能です。

したがって、交通事故を予防するためには、運転者の側が多様な危険のパターンを事前に覚えておき、危険を予知して回避することが必要になります。

他者の行動を変えられない

他の主体の行動を変えることはほとんどできないので、運転者に求められるのは、周囲の状況を把握し、危険を回避するための適切な判断及び運転行動を連続して行うことです。

自動車運転の危険の特徴は、運転者の判断と運転行動だけでなく、他の運転者、自転車、歩行者等、多様な主体の「好ましくない状態」が連動してが迫ってくることにあります。

それぞれの主体が独立して判断し行動しますが、それらがすべて適切なものとは限りません。
そして運転者の側ではそれら行動をコントロールすることはできません。

運転者は連鎖的に広がる必ずしも適切でない行動たちの中で、交通事故を回避しなければなりません。

そのため、常に危険を予知して、その危険に近づかないようにする判断と運転行動が求められます

危険が同時的・複合的

自動車運転では、自らも高速で移動することから、周囲の変化も早く、判断と運転行動に素早さが求められます。
注意力を一点に集中させていると、素早く判断し、運転行動に移すことができなくなるため、全体を的確に把握する必要があります。

単に注意力を分散させるのではなく、危険が潜んでいる複数のポイントを読み取り、それらに注意を傾けることで瞬時に対応できるようにしなければなりません。

自動車運転では周囲の交通状況は常に変化し続けます。
現実の危険は、同時的・複合的に顕在化しうるものです。

一つの危険が他の危険の引き金になることもあり、危険のポイントは絞り込むのではなく、予知された危険にすべて対応していくことが求められます。

KYT4ラウンド法では対応しきれない

状況変化を予測しえず、他の行動を変えられず、危険が同時的・複合的に発生する交通に対しては、職場や作業に潜む危険を発見・把握・解決するために、危険のポイントを絞り込み対応策を策定するKYT4ラウンド法では対応しきれないところがあります。

そのため、交通KYTはKYT4ラウンド法をそのまま使うのではなく、自動車運転の特徴に対応できる交通KYT基礎4ラウンド法を使って行います。

交通KYT基礎4ラウンド法が必要

KYT4ラウンド法(KYT4R法)は、危険のポイントと重点実施項目を絞り込み、行動目標を決めるやり方です。
「絞り込み」は現場での実践につなげるため、着目する危険とそれへの対策を絞り、やりきることをメンバーが合意する方法です。

しかし、交通では危険は同時的・複合的に顕在化し、しかも運転者は基本的には危険を回避することしかできません。
交通KYTにおいては、むしろ危険を具体的にとらえ明確化して、危険に対する感受性を高めることが重要です。
そのため、交通KYTでは「絞り込み」は行わず、危険を網羅的に把握することが必要です。

こうした点に考慮して作られたのが交通KYT基礎4ラウンド法です。

交通KYT(交通KYT基礎4ラウンド法)のやり方

交通KYTは、交通KYT基礎4ラウンド法で行うのが標準的です。

交通KYTの前提

参加メンバー

  • 5~6人程度
  • リーダー、書記等の役割分担が必要

必要な物

  • メモ等を残すためにホワイトボード、記録用紙等
  • KYTシート

交通KYTの手順

0 導入

全員で円陣を組み、リーダーが整列・番号、あいさつ、健康確認を行います。

1 第1ラウンド(現状把握)

リーダーはKYTシートに描かれた状況を説明し、メンバーの発言を促します。
KYTシートの中に潜む危険要因とそれが引き起こす現象を指摘し合います。

「○○なので、△△して××になる」(危険要因+現象)のような短文の形をとるようにします。
「○○なので△△して」危険要因
「××する」現象=事故の型
危険要因を網羅できるように、KYTシートにもよりますが最低でも3~5項目以上出したいところです。

2 第2ラウンド(本質追究)

リーダーは参加メンバーと話し合い、1で出された危険を明確化します。
重要なのは、(1)運転者の判断、(2)それに基づく運転行動、(3)相手及び(4)現象を明確にすることです。

3 第3ラウンド(対策樹立)

明確化された危険のうち、最初の1こうもくについて、参加メンバーが実行可能な具体策(実施項目)を話し合います。
大事なのは、自分が運転者としてどのような判断をしそれに基づいてどのような運転行動をするのか、という視点で考えることです。

4 第4ラウンド(目標設定)

リーダーは参加メンバーと話し合い、実施項目の中から最重点実施項目1つを決め、「○○する時は□□を△△して××しよう」といった形のチーム行動目標ににまとめ、参加メンバー全員で確認します。

5 確認

こうして出来上がったチーム行動目標を指差し呼称項目として設定します。

交通KYT(交通危険予知トレーニング)で使える無料ダウンロードできるイラスト・写真

交通KYT(交通危険予知トレーニング)で使えるイラストや写真は数多く公開されていて、無料ダウンロードできるものもたくさんあります。

独立行政法人 自動車事故対策機構(NASVA)
危険予知訓練(KYT)無料イラストシート集
バス
http://www.nasva.go.jp/fusegu/kikenbus.html
タクシー
http://www.nasva.go.jp/fusegu/kikentaxi.html
トラック
http://www.nasva.go.jp/fusegu/kikentruck.html
交通KYT(交通危険予知トレーニング)の無料イラストシートを、バス、タクシー、トラックに分類して公開しています。
さらに、有料教材として「ドライブレコーダー映像を用いた危険予知トレーニング」教材(KYTⅠ~Ⅲ)があります(http://www.nasva.go.jp/fusegu/mng_dorareko-kyt.html)。
予算さえ許せば有用な教材です。

このほか、こちらでも紹介しています。

交通KYT(危険予知トレーニング)に使える無料動画

ドライブレコーダーの普及等のおかげで、交通KYTの教材は動画のものが充実しています。
代表的なものだけでも次のものがあります。

一般社団法人 日本自動車連盟(JAF)
危険予知・事故回避トレーニング
実写版危険予知トレーニング
http://www.jaf.or.jp/eco-safety/safety/kyt/
住宅街編、市街地編、カーブ編、バイク編、自転車編等、カテゴリーで分類された無料の動画教材です。

株式会社本田技研工業
交通センスを身につける危険予測トレーニング(KYT)
https://www.honda.co.jp/safetyinfo/kyt/training/
CGなので、実写映像よりも余分な情報が削られ、要点がわかりやすくなっています。
なお、これらの動画を収録した危険予測トレーニング(KYT)DVD-ROMや、危険予測トレーニングのテキスト及びこれを収録したCD-ROM